オオアシトガリネズミ ヨモギに登る

 

 

 

野外飼育場の状況です。2年前まで家庭菜園のまねごとで、キュウリ、トマトなどを栽培していましたが、私はどうも家庭菜園向きの性格ではないようですので、野外飼育場にしてしまいました。

昨晩の続きですが、夜間オオアシトガリネズミは活発に動き回っていますが、思った以上に草に登っていました。2019年7月4日の20時から翌日5日の5時までに草に登ったことが11回自動撮影装置で記録されていました。

わかり安い映像は下記をみてください。積極的に草に登っていることが判ると思います。また、結構ジャンプします。同じようなところで、草に向かって飛びつこうとするようですが、毎回届かないように見えます。それでも繰り返します。ポジティブな?性格みたいです。

オオアシトガリネズミの野外飼育場での行動 

 

通常は、長さ70cm、幅35cm程度の衣装ケースで飼育していますが、それとは別に、10倍程度大きい野外飼育場で、オオアシトガリネズミを飼育したことがあります。当然、土で草が生え、流木などが置いてあります。今日はその時のオオアシトガリネズミの生き生きとした行動の映像です。

活発に動きます。地表、特に流木の上で活動する場合は、良く立ち上がって周囲の状況を確認するような行動を頻繁にしています。驚きは、勢い余って流木から飛び上がって地面まで落ちてしまうことです。オオアシトガリネズミの全長の2.5倍くらいの高さから落ちています。人間なら5mくらいから落ちている感じだと思いますが、全く平気です。落ちることに関して、基本的に恐怖感というものを持ち合わせていないかのように見えます。

野外飼育場には餌となるミミズや昆虫もいますが、与えたミルワームや水を頻繁に利用しています。餌の利用割合の変化までは調べられませんでしたが、一端飼育したので餌入れの場所はすぐに判ったようです。

オオアシトガリネズミの爪は、特に伸びやすい?

オオアシトガリネズミの2枚の写真で、前足の爪の状況を見比べてください。

1枚目の写真の状態が通常です(クリックして拡大してください)。2枚目の写真は、爪の先が曲がりかけているくらい以上に伸びていることがわかります。(付け爪しているようです。)

悪いのは私です。オオアシトガリネズミは、北海道産のトガリネズミの中では一番土を掘るために特化しており、他の種と比べても手の平はグローブのように大きいです。当然、土を掘ることで、爪が必要以上に伸びないように普段の行動で調整されています。しかし、飼育しやすいように土の代わりにチップを敷いていますし、脱出される要因になる流木などもほとんど入れていませんでした。したがって、爪が削れるような状況を作って居なかったのです。

爪が伸びすぎると歩きにくくなりますし、爪が折れるとそれが原因で感染症を引き起こす原因になります。かわいそうです。反省して、流木を入れていますが、十分とまでは行かないようで、爪はのび気味傾向にあるのも事実です。もう少し工夫したいと考えています。トウキョウトガリネズミも同様に爪は伸びますので、流木を入れたり、木の箱を入れたりしています。

 

オオアシトガリネズミも結構普通に草に登る

これまで、トガリネズミ類で草に登るのはトウキョウトガリネズミの専売特許見たいなことを書いてきましたが、実はオオアシトガリネズミも結構頻繁に草に登っていることが判ってきました。以前に野外で木に登ったオオアシトガリネズミを見たことはありますが、草に登ったところは見たことがありませんでした。

これまでは、時々草に登ることがあってもすぐ降りてくるということを報告してきましたが、野外飼育場でオオヨモギを夜間に結構頻繁に登り降りするのを自動撮影装置で記録してから、これまで考えてきた以上にオオアシトガリネズミも草を登ることが判ってきました。

映像は、夜間も昼間も飼育下では草に登るということが記録された映像です。トウキョウトガリネズミのように、長時間草の上にいることまでは確認できていませんが、思った以上に草の上に留まっていることが判ってきました。トウキョウトガリネズミとの差は何であるのかはこれからです。でも、体重が重たいのはやはり草を利用するにはハンディになっているようです。

オオアシトガリネズミは、主に地表から地中を利用するため、草などには基本的に登らないと考えられていましたが、そうではないことが少しずつ判ってきました。これも、昨日書いたように定説(固定概念)を鵜呑みにせず、新たな視点でアプローチして考えるということが十分でなかったため、これまで検討されていなかった行動になります。北海道に生息する4種のトガリネズミにとっては、草に登ること自体は、どの種も基本行動の一部とし考えても良いのかもしれません。

そうすると、オオアシトガリネズミとトウキョウトガリネズミが共存しているのは、立体的な空間利用に明確な差があるからとトウキョウトガリネズミの研究を始めたころは考えてそのような論文も書きましたが、そんな単純なことではなく、まだ見落としているものがあるのではないかと最近は考えています。日々観察が重要だと痛感しています。

 

 

たまにはオオアシトガリネズミのはなし 

トウキョウトガリネズミだけではなく、オオアシトガリネズミも飼育しています。オオアシトガリネズミを飼育する目的は、トウキョウトガリネズミを知るための鍵を握っているからです。

その主な理由は、以下のようなものです。

1)オオアシトガリネズミは全道に広く生息していますが、トウキョウトガリネズミは、局部的にしか生息が確認されていないこと

2)トウキョウトガリネズミを捕獲している場所では、必ずオオアシトガリネズミも捕獲していること

3)私がトウキョウトガリネズミを恒常的に捕獲できるようになるまで、オオアシトガリネズミが体が大きく優勢だから個体数が多いが、トウキョウトガリネズミは体が小さいため劣勢なので個体数が少ないという解釈が当然とされていたから

トウキョウトガリネズミとオオアシトガリネズミが、同じ場所で捕獲されたことが、これまで定説とされてきたことを覆すことだけではなく、オオアシトガリネズミ自体も良く理解していなかったことも証明した形になりました。

このHPのサブタイトルに「新しい視点から」と入れているのは、トウキョウトガリネズミのこれまでのイメージや希少としてしまったのは、定説を鵜呑みにして疑わなかったということから作り出された虚像だったことの反省から来ています。

オオアシトガリネズミを知ることは、トウキョウトガリネズミを知ることでもあり、他の生物を知るヒントにもなりますので、これからはこれについても紹介したと思います。

まずは、オオアシトガリネズミ寝姿を見てください。夏の暑い時です。普段は草を丸めた巣の中で寝ていますが、撮影時は暑かったですので、草を丸めるのやめた感じの巣で寝ていました。それでも暑かったのか飼育ケースの隅でなんとも緩い感じて寝ています。最初は死んでいるのかと思ったくらいです。

トウキョウトガリネズミは、どのように見えているか 4

トウキョウトガリネズミは、じっとしているコオロギは見逃すという話をしてきましたが、本来コオロギをどのように捕食するかについて、映像をアップしていませんでしたので、本日はその映像を載せました。

コオロギが動いていれば、このように捕獲するという映像です。

コオロギを発見した時の、トウキョウトガリネズミの顔と目の動き、そして、どの時点で獲物として認識し、捕獲したのかについてよく見てください。

明らかに獲物が目の前にいると認識したのは、10cm程度前で、コオロギが歩いているのをみて、自分の進行方向の右側に草を飛び越え、コオロギの進行方向正面を避けて、コオロギを狙っているのが判ります。そして、間合いは計って4cm程度まで目の前に来た時点で飛びかかっています。その行動の間は、目(顔)はコオロギに向けられています。しかし、寸前でコオロギにかわされています。

実は、コオロギを捕食するときは、多くの場合1回で押さえ込めず、追いかけて仕留めることが多いです。基本的に1歩で捕まえられる距離ですか、1回では仕留められないのを見ますと、良く獲物が見えていないのか、動体視力が弱いのではないかと思ってしまします。

 

冬はどうしている?

北海道に生息しているトガリネズミの仲間で、トウキョウトガリネズミ、オオアシトガリネズミは、冬眠しないことは飼育して確認しました。私は、ヒメトガリネズミとエゾトガリネズミは、冬季に野外で飼育をしたことがありませんので、冬眠していないことまだ確認できていません。しかし、両種とも冬眠はしていないと推察されます。ヒメトガリネズミについては、霧多布湿原センターに勤務していた時、2月に建物に中に入ってきた個体を捕まえたことがありますので、冬眠していないと考えます。

さらに、積雪期にどこで、どのように生活しているのかについては、全く判っていません。雪上を歩くオオアシトガリネズミの紹介は以前しましたが、ずっと雪上とは考えられません。したがって、雪の下での行動が主体と考えるのが自然です。

トウキョウトガリネズミの飼育下での行動を見ていますと、雪にトンネルを掘りますが、堅く凍っていると掘れないようです。多分、雪の下では、映像のように枯れ木とか枯れ草などと雪の間にできた空間を、トンネルでつなぎなから活動しているのでないかと推察されます。

氷を囓るトウキョウトガリネズミ

連日寒い日が続いています。今年は、昨年末からほとんどプラスの気温になっていません。飼育小屋は、当然マイナス気温で水分はすべて凍っています。

ゆでたミルワームも数時間すると凍ってしまいます。餌替えをする時に、水も毎回交換しますが、これもまた数時間で凍ってしまいます。水替えをしますと、大概はすぐに飲みに来ます。喉が渇いているのかもしれません。

しかし、いずれにしても、水は凍ってしまいます。凍った後はどうするかといいますと、氷を囓って水分補給をするようです。それは、オオアシトガリネズミでも一緒ですが、なぜかトウキョウトガリネズミは氷の上で糞をすることが多いです。

氷を囓る時に踏ん張るからなのでしょうか?餌や水が入った器内では糞尿をすることを基本的にしないトウキョウトガリネズミですが、氷の上では、かなりの頻度で糞をしています。

これに対して、餌や水の入った器内に平気で糞尿をするオオアシトガリネズミは、凍った水の上では糞をしていません。器と体の大きさの関係で、氷を囓る際に糞が器の外に落ちてしまうのかもしれませんが、冬になると水入れがきれいであることに、いつもある意味感動します。

現在は、トウキョウトガリネズミの飼育ケースには雪は入れていません。普通は雪をなめている方が多いのかもしれませんが、雪を入れていても、氷を囓った後はありました。

中央部の筋状にへこんでいるところ(溝状になっている)が、トウキョウトガリネズミが囓った跡。氷上部の茶色俵状のものは、トウキョウトガリネズミの糞

トウキョウトガリネズミの巣の作り方 その1

トウキョウトガリネズミ、ヒメトガリネズミ、オオアシトガリネズミは、草で球状の巣を作ります。(エゾトガリネズミについては、あまり飼育していませんのでまだ十分な確認が出来ていませんが、多分同じように作ると思います。)

作り方には、幾通りかの方法があるようです。まず、巣を作りたいと思う場所に、近くのあるときはその場で草を、全身を使って丸めながら引き込みますが、近くにない場合は、まず材料を集めます。

上記の映像は、下図のような配置して撮影しています。撮影時には左側のケースは床材としてチップを敷いてその上にほぐした牧草を約5cm厚で敷き詰めた状態になっていて、餌と水は、撮影しているケースにしか無い状態になっています。映像の前半は、数時間前に現在のケースに入れたばかりの状態です。その後床がアクリル版のままでしたので、流木の下に草を敷いたら、草を集める行動が撮影されました。

通常は草を厚く敷いていることが多いですので、映っているような引き込みは、あまり見かけませんが、必要であれば草を集めてくることが判ります。

赤枠で囲っている配置で撮影している。飼育ケース内の流木などの配置状況は撮影時とは異なる。

トガリネズミを見分ける6(白くて斑でもトガリネズミ)

パンダがらしたオオアシトガリネズミ

上記の写真は、オオアシトガリネズミです。

トガリネズミには、体の一部が白化した個体も時々見られます。全身白く、目が赤くなっているアルビノとは異なり、体の一部が白くなっているだけです。

アルビノは、極めて希です。それに対して、体の一部は白化した個体はトガリネズミでは時々見る事ができます。今回のようなパンダみたいな模様の個体は、私もこの1例だけですが、尾の先が白化している個体はたまに見ることがあります。白くなっている大きさは、個体によってそれぞれで、気をつけて見てみないと気がつかないほど白い部分が少ない個体もあります。

これだけを見ますと、図鑑に載っていないので「新種か?」と思ってしまいがちなのですが、北海道では普通にいるオオアシトガリネズミなのです。この場合は、最終的には、上顎の歯の形状を確認することで同定(確定)することになります。

誰かに同定してもらいたいと考えるなら、本当は死体をアルコールやホルマリンで液浸するか、冷凍して、死体を送ることが一番確実です。しかし、訓練したことのない人が行いますと、病気などに感染する可能もあるので、まずは写真を撮ることをおすすめします。上記のように全身の大きさが判るようにスケールと一緒に写った写真を最低1枚、あとは各所を拡大した写真を数枚撮って送れば、種を確定できなくても、種の候補はある程度絞り込むことができます。全体の大きさが判ることが、種名を絞り込む重要な情報であることには変わりありません。詳しい方法は、別の回で書きたいと思います。