嶮暮帰島の生態系のイメージ

嶮暮帰島の生態家のイメージ(絵は、(株)野生生物総合研究所の森田さんによるものです)

東日本大震災から10年目ということで、嶮暮帰島について思いつくことを書いてきました。合わせて、気がついたら嶮暮帰島に通い初めてから20年を超えていることを改めて認識しました。しかし、意外と嶮暮帰島の変化についてまとめていなかったことと、記録もあまりしっかり取っていなかったことに気づきましたので、資料を整理しようと思ったのがきっかけでした。この22年間、嶮暮帰島に行かなかった年はありませんでしたが、いつも、調査準備に疲れ、現地では時間が足りなく、睡眠不足で、とんぼ返りで自宅にもどりトガリネズミの飼育と仕事するということが恒例になっており、とにかくトガリネズミ調査以外の調査は基本的には行って来なかったのも事実です。しったがって、トガリネズミ以外の島の記録が曖昧なところも多いことが判りました。

改めて整理していて気づきました。津波の話から始めましたので、また重要なことを書いていなかったことです。上の図が、嶮暮帰島の主な鳥類と哺乳類が一番数多く生息している場所のイメージ図です。これをもっと早くアップしておくべきでした。嶮暮帰島のイメージが全く無い状態でのこれまでの話はわかりにくかったと反省しました。

図の左側は外海で、右側は琵琶瀬湾になります。エゾヤチネズミとオオアシトガリネズミは台地の上部にも、またトウキョウトガリネズミがいる琵琶瀬湾側の海岸線にいますが、この2種が多いのは台地上の上部になります。

 

 

 

嶮暮帰島のいきもの コシジロウミツバメ その5

これまでのコシジロウミツバメについての補足です。

1)コシジロウミツバメは巣穴を掘りますが、掘る力はあまり強く無いと書きました。土を掘る足は、水かきが付いて面積はありますが、力強い足には見えません。

2)コシジロウミツバメが巣穴を掘る環境は、掘りやすい場所を探して多様な場所で穴を掘ります。

左側の草の生い茂ったところに巣穴と掘っている

 

ハンノキの低木林の中の土の斜面にも巣穴を掘る

3)コシジロウミツバメのアップ

4)コシジロウミツバメ雛の写真

コシジロウミツバメの幼鳥
あくびをするコシジロウミツバメの雛

嶮暮帰島のいきもの コシジロウミツバメ その4

コシジロウミツバメの幼鳥

嶮暮帰島のコシジロウミツバメの営巣状況調査は、2000年に調査して以降再調査していません。現在も2000万ペアーを維持しているかは不明です。体感的には、相当少なくなったような気がします。

嶮暮帰島に生息しているコシジロウミツバメの個体数を推計するには、嶮暮帰島にどれだけの巣穴があり、その巣穴の何%が利用されており、どれくらいが繁殖に成功するかということを、嶮暮帰島をいくつかのブロックに分けて、その中からサンプルを抽出して算出します。

巣穴の総数は、巣穴が掘られている環境ごとの巣穴の密度が判れば良いですので、巣穴の数を数えるだけですので、これは比較的簡単です。しかし、その巣穴のどれだけ利用しているのかを調べるのは大変です。そこで、多数の巣穴の状況を調べるために使用したのが、楊枝です。巣穴の前に楊枝を立てておいて、一晩でそれが倒れていたら、利用されている巣であると判断します。理由は、孵化して雛がいたら原則として毎日餌を運んできますので、必ず巣穴に入るため楊枝に触れて倒すからです。これは、先人によって、考案された方法です。

また、巣穴に入っていく様子も夜間なので良く見えませんので、確認するために使用したのが5台のSonyのビデオカメラで、ナイトショットという赤外線で撮影できる初期のビデオカメラです、その当時は、現在みたいなセンサーカメラなどは普及していませんでしたので、自動撮影すること自体が大変でした。深夜に一度はビデオテープを交換しないといけませんでした。

コシジロウミツバメの卵

しかし、営巣状況を確認するには、巣穴に手を突っ込んで、巣穴にいる鳥を引っ張りだして、確認するしかありません。もちろん、ランダムに巣穴を選びますが、嶮暮帰島全体で20個程度の営巣確認ができるくらいまで、手を突っ込むことになります。巣穴は曲がっていたり、細くなっていたりして、奥まで届かないこともあり、20個体程度の営巣を確認するのに手を突っ込む穴の数は、その5倍くらいになります。

工業用のファイバースコープで穴の中を調べたこともありますが、曲がっているとレンズが土の中に刺さるとか、コシジロウミツバメが土をかけてきますので、結局手をつっこんで捕まえるということが一番確実ということになります。手袋はしていますが、腕はむき出しなので、擦り傷で赤くなり、ひりひりします。さらに、イラクサやアザミが群生している中にも穴がありますので、これらに触れないように頑張りますが、結局は触れてしまい、痛がゆくなり、結構体がぼろぼろになる調査です。更に、穴の中に親鳥がいる場合は、手を突っつかれます。最初は、びっくりして痛いと思いますが、実は大したことはありません。馴れてきますと、突っつかれたらラッキーと思うようになります。手を突っ込む回数が減るからです。いや、かわいい幼鳥に会えるからです。

何れにしても、一般の方からは変態か?と思うような体を張った調査です。

嶮暮帰島のいきもの コシジロウミツバメ その3

コシジロウミツバメは、鳴き声も特徴的ですが、独特の臭いが強いですので、臭いでその存在がわかります。自分でいうのもなんなのですが、おじさん臭いというのか、乾いた雑巾にみたいな、なんとも言えない臭いです。決して良いにおいではありません。
巣穴の近くを歩いただけも、利用されている巣穴かどうかも、臭いで判るくらい強い独特な臭いです。鳴き声は夜間のみで、日中洋上で餌を食べてきたパートナーが、間違えずに巣に戻って来れるように鳴き交わして場所を知らせます。日中は、全く鳴きません。
トウキョウトガリネズミの捕獲地の周辺にはコシジロウミツバメの巣穴がありますので、当然コシジロウミツバメの巣穴からも少し離れたテント設営地周辺も着陸地点になります。夜間はテントの明かりで幻惑されるのか、時々テントにぶつかってくる輩や着地後歩いていると目の前に立ちはだかるテントを迂回せず強行突破をはかろうとする輩がでてきます。そのような輩は、大概テントとフライシートの間に入って出られなくなって、もがくことになります。このような方々には、丁重に迂回していただくよう誘導して、退去していただきます。本来、我々はそこに居るはずはありませんので、大変申し訳なく思っていますが、たまにテント内で大暴れする輩には少し、我を忘れます。
嶮暮帰島は無人島なので、キャンプをします。調査は、3人で行うことが多いです。よって、テントサイトは、作業用の共同テントと寝るための個人テントで構成されます。最近は、私一人で嶮暮帰島に調査行く事も多く、一人でテントが設営でき、作業場も確保できるインナーテントが2つ吊せるデカトロンのケシュアというファミリーテントを使用しています(20120年に廃盤になったモデルです)。嶮暮帰島は風が頻繁に吹いており、強風が結構多い場所です。したがって、作業場を確保できるような4~6人用のファミリーテントを一人で立てることは、結構困難です。しかし、一人で設営でき、かつ作業場が十分確保できるのが、このデカトロンのテントです。しかし、これが時々悲劇を生みます。このテントには、裾にスカートがついていませんので、地面との間に隙間があり、コシジロウミツバメが容易に侵入してくるのです。テントにコシジロウミツバメが首を突っ込んだ瞬間にコシジロウミツバメの臭いでテントが充満します。自らテント外にすぐ出て行ってもらっても、一晩はコシジロウミツバメの臭いにたえながら、過ごすことになります。1回、インナーテントを閉め忘れて、罠の見回りに行っている間に侵入されました。テントあけた瞬間、あの強烈な臭いです。まずいと思い作業場を探したが居ません。自主的に退去してくれたのか?と思った瞬間。寝袋や着替えの上で動く物が・・・。手遅れでした。低調に退出をお願いしましたが、暴れまくり、調査が終了するまでコシジロウミツバメの臭い中で生活することになりました。

嶮暮帰島のいきもの コシジロウミツバメ その2

手袋についている赤いのは、コシジロウミツバメの吐瀉物

コシジロウミツバメは、体長21cmの小さな海鳥です。土に穴をほって巣穴としますが、体は小さく、穴を掘るには非力です。したがって、石が多い場所、硬い土、ササの根が張っているような掘りにくい場所では、巣穴が掘れません。嶮暮帰島は台地上の島で、上部の台地では嘗て、耕作と放牧が行われており、畝や土塁が各所に残っています。よって、ササが生えていない傾斜地、畝、土塁などの凹凸のあり、水はけの良い場所が巣穴を掘る場所に選ばれます。しかし、巣穴を深く、丈夫に掘れるわけではないので崩れやすいものになります。特に人間が歩くと巣穴を踏み抜いてしまうことが多々ありました。 私が2000年に調査するまでは、そのような状況は知られていなかったため、嶮暮帰島の台地上の部分を自由に歩きわまっていましたが、現在は歩くコースが決められ、コシジロウミツバメの巣穴を踏み抜かないように配慮されています。

コシジロウミツバメの巣穴

 トウキョウトガリネズミの捕獲場所は、台地部分ではなく低地の海岸部分で、過去に昆布を干すための干場だった場所が主です。干場は石を敷き詰めて作られます。昆布干しとして利用されなくなって、場所によっては60年以上経過しているところもありますが、未だに石が多く、墜落函を埋めるために穴を掘るのは結構大変です。しかし、墜落函を掘るときにコシジロウミツバメの巣を破壊することはありませんので、とても気が楽です。

コシジロウミツバメは、弱くて、不器用な鳥です。日中、巣穴から出てしまうと陸上では動きが遅く、オオセグロカモメ、カラスなどに襲われてしまいます。したがって、島ではこれら捕食者の活動が低下している夜間に行動します。襲われても、鋭い嘴や爪があるわけではありませんので、唯一の抵抗が胃の内容物を吐くことです。オキアミを食べていますので、吐瀉物は血のよう赤くて、臭いですが、ほとんど防御になっていないような気がします。また、着地が下手です。巣の位置を知られないように、少し離れたところに降りますが、その降り方が着地というより落下という感じです。そして、よたよたと巣穴まで歩いて行きます。
トウキョウトガリネズミの捕獲地内には巣はないのですが、巣は周辺にありますので、調査地内に落ちてきます。さすがに、歩いている人間にむかっては落ちて来ませんが、テントにぶつかったり、罠の側に落ちてきたりします。暗闇の中で出会いますので、何度もびっくりさせられます。