嶮暮帰島のいきもの 鳥の声

嶮暮帰島には入島制限があります。現在は、仲の浜ペンションポーチだけが嶮暮帰島ツアーをやっていて、日中だけ観光客が島を訪れることができます。私達は、浜中町の入島及び宿泊許可を得て捕獲調査を行っています。

私は22年間嶮暮帰島に年に最低1回、多い年は5回キャンプして来ました。嶮暮帰島でキャンプをして、毎年感動するのは、嶮暮帰島の音、特に鳥の鳴き声が、時間帯によって、季節よってめまぐるしくかつ劇的に変化することを体感することです。7月は生命の爆発的な活動力を感じますが、9月中旬を過ぎると生命をほとんど感じない不気味な感じに囚われるほど静寂に包まれます。多分体感しないと判ってもらえないと思いますが、これほど生命の活力を肌で感じることが出来る場所は、そんなに数多くないと思います。

季節的には5月頃から、コシジロウミツバメ、オオセグロカモメ、ウミネコなどの海鳥とオオジシギ、エゾセンニュウ、ノビタキ、クイナなど草原性の鳥が少しずつ訪れ、段々にぎやかになって来ます。7月をピークに8月中旬になると段々静かになり、9月中旬になりますと、信じられないほど静かになります。この間の劇的は変化は、表現が難しいのですが、ピーク時は生命のいぶきが爆発しているパワーを鳥の鳴き声多さ、大きさから感じます。

また日中と夜間では全く異なり、夜間は日中とは比べものにならないほどパワフルです。しかし、どんなにパワフルでも日の出60分前頃から、一瞬ほぼ無音みたいに鳥の鳴き声がピタットと無くなる時が10~20分程度必ずあります。それは、夜の主役のコシジロウミツバメやカモメ類から、日中の主役のエゾセンニュウに変わる一瞬の変わり目の時です。この時の静けさが何とも言えません。

しかし、この変化は8月中旬くらいまで、その後ような季節的、時間的変化がピタッと無くなります。この差は、恐怖感じるくらいの差です。夏場の夜間は他の生き物と一緒にいるという実感を得ますが、秋になると一人だけ死の島に来たのではないかと思うほど生き物の気配を感じ無くなってしまいます。

夜間寝ないで調査をする、トガリネズミ調査の特権かもしれません。出来ればこの生命の活力を多くの人に感じてもらいたいと思います。身近な環境でも同様なことが起きているはずなので、本来ならどこでも体感できるはずなのですが、嶮暮帰島で徹夜の調査を行うと感覚が研ぎ澄まされるからかもしれませんが、数十倍増幅されて感じることができます。この感覚を私が十分お伝えできないのがもどかしく、残念です。

下記の映像は、7月中旬の同じ場所の状況で、前半は22時頃で、後半は3時半頃の状況です。鳥の声に着目してください。本当の静けさはこの後半のよりももっと少ないです。無音だと気づいて、撮影しようと外にでたらもうこれくらい鳴いていました。正直、寝ぼけていたので出遅れました。

 

嶮暮帰島のいきもの エゾヤチネズミ

個体数推計調査を行っていませんので本当のところは判りませんが、嶮暮帰島でコシジロウミツバメに次いで個体数が多いと思われるのは、エゾヤチネズミかもしれません。とにかく、箱罠(シャーマントラップ)をかけますと、すぐに罠に入りますし、トガリネズミ捕獲用の墜落函にも、エゾヤチネズミが入っていることが結構あります。時には幼獣が3個体墜落函に入っていたこともありました。エゾヤチネズミの成獣は、深さ20cm程度の墜落函くらいは自由に出入りできるようなジャンプ力はあります。しかし、見回り中に墜落函にエゾヤチネズミが結構入っていることがありますが、そのような個体は居心地が良いのか、墜落函から追い出さないと出て行かない個体の方が多いです。また、一晩中何回も同じ墜落函にエゾヤチネズミが入っていることもあります(多分同じ個体と思われますが)。

自動撮影装置では、エゾヤチネズミは墜落函から飛び出てくるところも撮れていますが、トリガーの関係できれいなジャンプして出てくる瞬間は撮れていません。今回は、墜落函が設置されているなか、墜落函の前でどのようなことが展開されているかエゾヤチネズミの行動をピックアップしてみました。

 

嶮暮帰島のいきもの クイナ

嶮暮帰島で、トウキョウトガリネズミの捕獲調査をしていると文句を言われることがあります。それは、クイナです。クイナは、捕獲調査をしている環境周辺で営巣しています。

罠を設置している場所をクイナな行動圏ですので、時々ニアミスをします。そうすると、ピィ=と鋭く何回も鳴かれ怒られます。とは、言っても、クイナは草の中ですので、見る事はほとんどありません。

しかい、映像のように捕獲調査地域を利用しており、雛までつれています。なるべく、クイナの繁殖の邪魔をしないように、怒られたらできるだけ、速やかにその場を離れるように努めています。

 

嶮暮帰島のいきもの コシジロウミツバメ その5

これまでのコシジロウミツバメについての補足です。

1)コシジロウミツバメは巣穴を掘りますが、掘る力はあまり強く無いと書きました。土を掘る足は、水かきが付いて面積はありますが、力強い足には見えません。

2)コシジロウミツバメが巣穴を掘る環境は、掘りやすい場所を探して多様な場所で穴を掘ります。

左側の草の生い茂ったところに巣穴と掘っている

 

ハンノキの低木林の中の土の斜面にも巣穴を掘る

3)コシジロウミツバメのアップ

4)コシジロウミツバメ雛の写真

コシジロウミツバメの幼鳥
あくびをするコシジロウミツバメの雛

嶮暮帰島のいきもの コシジロウミツバメ その4

コシジロウミツバメの幼鳥

嶮暮帰島のコシジロウミツバメの営巣状況調査は、2000年に調査して以降再調査していません。現在も2000万ペアーを維持しているかは不明です。体感的には、相当少なくなったような気がします。

嶮暮帰島に生息しているコシジロウミツバメの個体数を推計するには、嶮暮帰島にどれだけの巣穴があり、その巣穴の何%が利用されており、どれくらいが繁殖に成功するかということを、嶮暮帰島をいくつかのブロックに分けて、その中からサンプルを抽出して算出します。

巣穴の総数は、巣穴が掘られている環境ごとの巣穴の密度が判れば良いですので、巣穴の数を数えるだけですので、これは比較的簡単です。しかし、その巣穴のどれだけ利用しているのかを調べるのは大変です。そこで、多数の巣穴の状況を調べるために使用したのが、楊枝です。巣穴の前に楊枝を立てておいて、一晩でそれが倒れていたら、利用されている巣であると判断します。理由は、孵化して雛がいたら原則として毎日餌を運んできますので、必ず巣穴に入るため楊枝に触れて倒すからです。これは、先人によって、考案された方法です。

また、巣穴に入っていく様子も夜間なので良く見えませんので、確認するために使用したのが5台のSonyのビデオカメラで、ナイトショットという赤外線で撮影できる初期のビデオカメラです、その当時は、現在みたいなセンサーカメラなどは普及していませんでしたので、自動撮影すること自体が大変でした。深夜に一度はビデオテープを交換しないといけませんでした。

コシジロウミツバメの卵

しかし、営巣状況を確認するには、巣穴に手を突っ込んで、巣穴にいる鳥を引っ張りだして、確認するしかありません。もちろん、ランダムに巣穴を選びますが、嶮暮帰島全体で20個程度の営巣確認ができるくらいまで、手を突っ込むことになります。巣穴は曲がっていたり、細くなっていたりして、奥まで届かないこともあり、20個体程度の営巣を確認するのに手を突っ込む穴の数は、その5倍くらいになります。

工業用のファイバースコープで穴の中を調べたこともありますが、曲がっているとレンズが土の中に刺さるとか、コシジロウミツバメが土をかけてきますので、結局手をつっこんで捕まえるということが一番確実ということになります。手袋はしていますが、腕はむき出しなので、擦り傷で赤くなり、ひりひりします。さらに、イラクサやアザミが群生している中にも穴がありますので、これらに触れないように頑張りますが、結局は触れてしまい、痛がゆくなり、結構体がぼろぼろになる調査です。更に、穴の中に親鳥がいる場合は、手を突っつかれます。最初は、びっくりして痛いと思いますが、実は大したことはありません。馴れてきますと、突っつかれたらラッキーと思うようになります。手を突っ込む回数が減るからです。いや、かわいい幼鳥に会えるからです。

何れにしても、一般の方からは変態か?と思うような体を張った調査です。

嶮暮帰島のいきもの コシジロウミツバメ その3

コシジロウミツバメは、鳴き声も特徴的ですが、独特の臭いが強いですので、臭いでその存在がわかります。自分でいうのもなんなのですが、おじさん臭いというのか、乾いた雑巾にみたいな、なんとも言えない臭いです。決して良いにおいではありません。
巣穴の近くを歩いただけも、利用されている巣穴かどうかも、臭いで判るくらい強い独特な臭いです。鳴き声は夜間のみで、日中洋上で餌を食べてきたパートナーが、間違えずに巣に戻って来れるように鳴き交わして場所を知らせます。日中は、全く鳴きません。
トウキョウトガリネズミの捕獲地の周辺にはコシジロウミツバメの巣穴がありますので、当然コシジロウミツバメの巣穴からも少し離れたテント設営地周辺も着陸地点になります。夜間はテントの明かりで幻惑されるのか、時々テントにぶつかってくる輩や着地後歩いていると目の前に立ちはだかるテントを迂回せず強行突破をはかろうとする輩がでてきます。そのような輩は、大概テントとフライシートの間に入って出られなくなって、もがくことになります。このような方々には、丁重に迂回していただくよう誘導して、退去していただきます。本来、我々はそこに居るはずはありませんので、大変申し訳なく思っていますが、たまにテント内で大暴れする輩には少し、我を忘れます。
嶮暮帰島は無人島なので、キャンプをします。調査は、3人で行うことが多いです。よって、テントサイトは、作業用の共同テントと寝るための個人テントで構成されます。最近は、私一人で嶮暮帰島に調査行く事も多く、一人でテントが設営でき、作業場も確保できるインナーテントが2つ吊せるデカトロンのケシュアというファミリーテントを使用しています(20120年に廃盤になったモデルです)。嶮暮帰島は風が頻繁に吹いており、強風が結構多い場所です。したがって、作業場を確保できるような4~6人用のファミリーテントを一人で立てることは、結構困難です。しかし、一人で設営でき、かつ作業場が十分確保できるのが、このデカトロンのテントです。しかし、これが時々悲劇を生みます。このテントには、裾にスカートがついていませんので、地面との間に隙間があり、コシジロウミツバメが容易に侵入してくるのです。テントにコシジロウミツバメが首を突っ込んだ瞬間にコシジロウミツバメの臭いでテントが充満します。自らテント外にすぐ出て行ってもらっても、一晩はコシジロウミツバメの臭いにたえながら、過ごすことになります。1回、インナーテントを閉め忘れて、罠の見回りに行っている間に侵入されました。テントあけた瞬間、あの強烈な臭いです。まずいと思い作業場を探したが居ません。自主的に退去してくれたのか?と思った瞬間。寝袋や着替えの上で動く物が・・・。手遅れでした。低調に退出をお願いしましたが、暴れまくり、調査が終了するまでコシジロウミツバメの臭い中で生活することになりました。

嶮暮帰島のいきもの コシジロウミツバメ その2

手袋についている赤いのは、コシジロウミツバメの吐瀉物

コシジロウミツバメは、体長21cmの小さな海鳥です。土に穴をほって巣穴としますが、体は小さく、穴を掘るには非力です。したがって、石が多い場所、硬い土、ササの根が張っているような掘りにくい場所では、巣穴が掘れません。嶮暮帰島は台地上の島で、上部の台地では嘗て、耕作と放牧が行われており、畝や土塁が各所に残っています。よって、ササが生えていない傾斜地、畝、土塁などの凹凸のあり、水はけの良い場所が巣穴を掘る場所に選ばれます。しかし、巣穴を深く、丈夫に掘れるわけではないので崩れやすいものになります。特に人間が歩くと巣穴を踏み抜いてしまうことが多々ありました。 私が2000年に調査するまでは、そのような状況は知られていなかったため、嶮暮帰島の台地上の部分を自由に歩きわまっていましたが、現在は歩くコースが決められ、コシジロウミツバメの巣穴を踏み抜かないように配慮されています。

コシジロウミツバメの巣穴

 トウキョウトガリネズミの捕獲場所は、台地部分ではなく低地の海岸部分で、過去に昆布を干すための干場だった場所が主です。干場は石を敷き詰めて作られます。昆布干しとして利用されなくなって、場所によっては60年以上経過しているところもありますが、未だに石が多く、墜落函を埋めるために穴を掘るのは結構大変です。しかし、墜落函を掘るときにコシジロウミツバメの巣を破壊することはありませんので、とても気が楽です。

コシジロウミツバメは、弱くて、不器用な鳥です。日中、巣穴から出てしまうと陸上では動きが遅く、オオセグロカモメ、カラスなどに襲われてしまいます。したがって、島ではこれら捕食者の活動が低下している夜間に行動します。襲われても、鋭い嘴や爪があるわけではありませんので、唯一の抵抗が胃の内容物を吐くことです。オキアミを食べていますので、吐瀉物は血のよう赤くて、臭いですが、ほとんど防御になっていないような気がします。また、着地が下手です。巣の位置を知られないように、少し離れたところに降りますが、その降り方が着地というより落下という感じです。そして、よたよたと巣穴まで歩いて行きます。
トウキョウトガリネズミの捕獲地内には巣はないのですが、巣は周辺にありますので、調査地内に落ちてきます。さすがに、歩いている人間にむかっては落ちて来ませんが、テントにぶつかったり、罠の側に落ちてきたりします。暗闇の中で出会いますので、何度もびっくりさせられます。

嶮暮帰島のいきもの コシジロウミツバメ その1

コシジロウミツバメ

嶮暮帰島では、津波の影響でウミネコのコロニーが形成されたという話を書きました。私が嶮暮帰島に通い初めてから22年経過しましたが、ウミネコのコロニーが嶮暮帰島で目立ったのは、2011年を中心としては前後2年間ほどの5年程度です。それまでは、コシジロウミツバメとオオセグロカモメが優占していました。

特に、嶮暮帰島のコシジロウミツバメは、2000年に私が調査した結果では、20,000ペアは生息していると推察され、国内でも2番目に多いコロニーを形成していることが判っています。

コシジロウミツバメは、普段は洋上で生活しており、5月~9月中旬まで子育てのために嶮暮帰島に来ます。地中に穴を掘り、その中で卵を産み、子を育てます。親は、雛が小さい時は交代で洋上に餌を取りに行いきます。日が暮れてから島に戻ってきて、日の出前に島を離れます。最盛期の8月には20時頃から3時頃まで、独特な鳴き声がずっと続きます。以下の動画は、トウキョウトガリネズミの捕獲地調査地上空の状況です。この調査地は、嶮暮帰島の中でもコシジロウミツバメの営巣が少ない地域ですが、6~8月の調査では毎晩このような状態の中で調査を行います。暗闇の中で撮影していますので、飛んでいるところを追うの難しいです。この映像は、飛翔個体が少ないの方です。

霧の中、嶮暮帰島に戻ってきたコシジロウミツバメ

 

東日本大震災の津波で得た希少種保護に関する教訓 その3

浜中町は、60年前のチリ沖地震で津波を被っています。霧多布湿原の中央に(海岸から1.5km程)朽ちた船があるのは、この津波で海から流されて来たからだと聞いています。すなわち、60年前には津波を被って一度リセットされましたが、それからの40年間で、海岸までトウキョウトガリネズミの生息域が拡大したことになります。以前の堤防は低く、人間も簡単に登り降りできるものでしたので、本種も霧多布湿原との往来は比較的簡単にできたのかもしれません。本来、高潮で波を被る可能性のある場所であることから、その生息地は何回も壊滅的な打撃を受けていたと推察されます。しかし、そこに本種の個体群が維持されていたということは、霧多布湿原から本種が何度も海岸まで移動して来たと考えるのが自然です。新しい堤防はかなり高く反っているため、本種が堤防を越えて海岸まで再び進出するのかは判りませんが、霧多布湿原に本種の個体群が存続し続ければ、再び海岸でも本種の生息地が形成される可能性があることになります。

以上のことから、私が教訓としているのは、「目先の生息地の保全だけを考えていたら、2つの重要なもの失う。」ということです。 それは、「住民の信頼と協力」 と「その希少種にとって、一番重要な生息地」ということです。

希少種を守るためには、住民の協力無しにはできません。さらに、状況によっては、住民にとって、不自由さや経済的影響を受け入れてもらわざるを得ないことも生じます。しかし、それを受け入れてもらえるのも信頼関係が成立したからこそです。したがって、保全を主張する側は、地域の状況をできるだけ考慮した上で、保全方法を提案する責任があると考えます。

トウキョウトガリネズミの研究をしていますと、「生息地の保護が必要ですよね。保護運動はしないのですか。」という趣旨の質問を度々されます。しかし、私はこれまで生息地の保護ということを前面に出して活動はしてきませんでした。それは、「希少種=守る必要がある=見つけた生息地を守れ」という、短絡的な思考では本当には守れないと考えているからです。それは、この教訓によるものです。

私は普段から環境アセスメントや地域づくりになどに関わっていますが、現状はかなりかけ離れています。その話については、別の機会にしたいと思います。

自然災害で命を失うのは、人間も野生生物も同じです。人間の命を守ることが、野生生物の命も守ることにも繋がるということも視野に入れて、環境保全は検討されることも重要だと考えます。私は、この一面も大切したいと思って活動しています。

改めて、東日本大震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈り致します。

東日本大震災の津波で得た希少種保護に関する教訓 その2

嵩上げ前の堤防とトウキョウトガリネズミの生息地

東日本大震災の津波から守ってくれたこの嵩上げした堤防の工事で、実は堤防内(海側)にあったトウキョウトガリネズミの生息地がすべて失われてしまいました。この場所は、本種を生きて捕獲できるきっかけになった場所です。細かい経緯は省略しますが、とにかく希少種である本種の生息地が破壊されるということで、新聞記事にしないかと言われたこともあったのですが、その時はとにかく記事にすることは良くないと思い、記事にしないように頼みました。その後も堤防工事で失われていく生息地を時々見ても他人に言うことはありませんでした。正直、当時は確固たる考えがあった訳でもなく、人命がかかっていることですので、なんとなく今回はその方が良いと思っただけでした。

避難所の対応は3日ほどで終了し、その後所属団体の方針もあり、5月には気仙沼に1週間程度のボランティア活動もさせていただきました。気仙沼は、本当に目を疑うような光景でしたし、陸前高田の状態はあまりにも想像を超えており、映画の世界みたいで、正直感情が全くわかない不思議な感じでした。その後、これらの状況が少しずつ自分の中で整理されてきたときに、突然ぞっとする気持ちに襲われました。

それは、もし堤防の嵩上げ工事に注文をつけて工事が遅れていたら、浜中町民にトウキョウトガリネズミの話をすることはもちろん、生息地の保全などと言っても絶対受け入れてもらえなくなってしまったでしょう。引いては野生生物の保護という行為自体も拒否されてしまうことになっていたかもしれないと思うと正直ぞっとしました。

どちらにしても、堤防工事で失われたトウキョウトガリネズミの生息地は津波でも失われたでしょう。また、津波は堤防で跳ね返されたため、本来あり得ないほどの範囲で津波が嶮暮帰島を襲い、本種の生息地にも大きな影響を与えました。しかし、嶮暮帰島の生息個体数は徐々に回復傾向にあると推察され、壊滅的な打撃を受けたわけではありませんでした。そして、捕獲は希ですが、霧多布湿原には本種が多く生息していると推察されることから、本種に取って一番重要な場所は守られ、かつ住民の方には住宅などへの被害が無かったという結果になりました。さらに、住民の方には、希少種の保全に悪いイメージを抱かせることも無かったという結果になりました。一歩間違えれば、嶮暮帰島のトウキョウトガリネズミの個体群は守られたかもしれませんが、霧多布湿原と海岸の生息地に壊滅的な打撃と悪いイメージだけが残り、希少種の保全などとは言えない状態になっていた可能性もあったと考えますとりますと、改めて希少種の保全活動するということの責任の重大さに恐ろしささえ感じました。