飼育ケース内のトウキョウトガリネズミを見つけるポイント

トウキョウトガリネズミの観察ポイント

10月31日の午前中に、博物館の展示の様子を見に行きました。思っていたより多くの人が博物館の見学に訪れていて、驚きました。また、その中でも結構な方が興味を持って、トガリネズミ展のコーナーを見ていただいていました。ありがとうございます。

見学の方を見ていますと、入り口の展示剥製を少し見て、展示ケースをみて、トガリネズミが出ていないとそのまま通過してしまうという状況でした。パネルには少し目を向けられますが、残念ながら流れている映像には素通りでした。トガリネズミ展を目的としてこられた方は少ないので、仕方ないと思いますが、せっかくなので、世界最小級の哺乳類とシロクマの大きさの差を実感してもらいたいと思いました。

今回の映像は、新型コロナウィルス感染防止の観点から、これまでように対面で解説するのもいかがな物かと考えて、解説中心のスライドとトウキョウトガリネズミとオオアシトガリネズミの紹介の映像で構成しています。そもそも、パネルの代わりという部分も持たせているので、文字が多いスライドが多いので、そんなに見ていただけないというのは想定していましたが、立ち止まって、トガリの映像を見ていただいた方はほんの数人の方でした。

その映像には、トウキョウトガリネズミを見つけるポイントも紹介しています。もし、これから見に行かれるなら、上図の場所に注目してトウキョウトガリネズミを探してください。動いていると判りますが、じっとしていると意外を気がつきません。動いていないからといって、草の中に隠れていると思っていたら、意外と目の前に居たということもあります。

あと、探す時間はほとんどの方は10秒程度で、1分近くかける方もそんなに多くはありません。トウキョウトガリネズミは、多くの場合約30分に1回程度(時には2時間以上出てこないこともありますが)は、隠れている場所からでてきます。会場では、トウキョウトガリネズミが出ていないことをまず確かめてから、映像とパネルを見てもらえますと、その間に出てくる可能性が高くなります。もう少し時間をかけていただければと思います。ちなみに顔を出すのは数秒から5分程度とその時によってかなりのばらつきがあります。

生体展示の場合、撮影禁止とお願いしている理由

北大博物館の展示で、トガリネズミの撮影をしないようにお願いしています。それは、カメラの出す超音波がトガリネズミに強いストレスを与えるからです。超音波を当てますと、逃げたり、隠れたり、固まって動かなくなったりします。

これまで、多摩動物公園、札幌市円山動物園、霧多布湿原センター、北大博物館で展示された生きたトウキョウトガリネズミの個体は、すべて私が捕獲して提供したものです。これらの経験から、多摩動物公園以外で展示された個体は、展示されなかった個体と比較して、寿命が短いという傾向を示しています。(多摩動物公園では、色々と配慮されています。それについては、改めて・・・)

ストレスの原因は複数ありますが、展示して一番加わるストレスは、はやり撮影と考えられます。現在は、飼育小屋で飼育していますが、以前は自分の書斎で飼育していましたので、生活騒音の中で飼育していました。それに比べても、短命傾向を示すのです。一番違うのは、撮影される頻度です。細かいことを言うと、撮影するカメラの機種、ガラスを通すと超音波の強さが変わるとか色々ありますが、今は誰でもまず撮影から・・と言っても過言ではないこのご時世です。その頻度は、私が撮影する頻度とは比べようもないほどの大きな差があります。

見学者の多くは、とにかく写真を撮ることから始まります。さらに、中には撮影を始めると我を忘れて更に良い写真を撮りたいと居座る人もでてきます。常に監視者がついている訳ではなく、収拾がつかないので一律禁止にさせてもらっています。ご理解とご協力をお願いします。

私も以前は、オートフォーカスを使用して撮影していました。その時は、30分以上の撮影はやめていました。今は、基本的にはピント合わせはマニュアルにして、オートフォーカスを使用していません。動きが速いので、マニュアルでピントを合わせることは実質不可能に近いです。したがって、観察して映像として残したいと思う場面が判れば、そこにピントを合わせて待っています。実は、マニュアルにしてからの方が、トウキョウトガリネズミの動きの細かい部分まで見えてきた気がします。ピンボケ写真の枚数が相当増加しましたが、ピントが合った時は予測が的中したことを示しているので、以前よりも1枚1枚に対する価値が異なってきたような気がしています。

ハマナスの実にのるトウキョウトガリネズミ

ハマナスの実に乗る、トウキョウトガリネズミ

 今年のトウキョウトガリネズミの展示用の飼育ケースには、流木を追加しました。トウキョウトガリネズミは、流木の割れ目が好きらしく、その中に入ってじ~っとしていたり、餌のミルワームを挟み込んだりしています。

 今年の調査で、トウキョウトガリネズミが、トゲのあるハマナスを、トゲの無い植物と同じように上り下りし、休息場所として想像以上に利用していることが判りました。トウキョウトガリネズミにとっては、ハマナスのトゲは小さな枝見たいなもののようです。また、ハマナスの実は食べませんが、ハマナスの実の上には乗ったりします。

 ハマナスの実に乗っているというのは、中くらいのプチトマトにトウキョウトガリネズミを乗せている感じです。

 展示前に、展示用の飼育ケースにハマナスを入れて馴らしていましたが、掃除の時にトゲが刺さり、作業がしにくいことが判ったので昨年と同様の草本にしました。トガリネズミの世話は、北大生の方々にボランティアで行ってもらっています。その方々に、痛い目に遭わせるのは申し分けないので・・・。特に油断している時に刺さると、余計に結構痛いです(>_<)

 

 

3月1日の多摩動物公園のトウキョウトガリネズミの講演会は中止になりました

 3月1日に多摩動物公園で行う予定でした、干支の講演会2020 PART2 北海道浜中町・多摩動物公園パートナーシップ協定記念講演会「トウキョウトガリネズミが結ぶ縁」~ねずみじゃないネズミの話~ は、新型コロナウイルス感染対策のため中止になりました。

 中止は残念ですが、現状では仕方ありません。まずは、感染拡大を避けなければなりません。事態が収まってから、改めて開催については検討してもらえると思います。

 重篤の方の早期のご回復を願うとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りします。皆様もお気をつけください。

3月1日に多摩動物公園でトウキョウトガリネズミの講演会をします

3月1日に多摩動物公園で、干支の講演会2020 PART2 北海道浜中町・多摩動物公園パートナーシップ協定記念講演会「トウキョウトガリネズミが結ぶ縁」~ねずみじゃないネズミの話~を開催します。

2003年に私が嶮暮帰島でトウキョウトガリネズミを捕獲できることを確認したことを契機に、2005年から多摩動物公園と共同研究という形で、捕獲調査や飼育の方法の確立などを行ってきました。それがきっかけになり、2007年には浜中町と多摩動物公園との協働で「トウキョウトガリネズミのふるさとである浜中町の自然と野生動植物を守る」という意思表示のためにパートナーシップを締結していただき、12年の歳月が経過しました。

12年間も継続できたこと自体とても素晴らしいことなのですが、正直、当時多摩動物公園と浜中町で関わっていただいたい方の多くは退職され、パートナーシップを締結した当時の関係者の思いは少し薄れてきた気がします。これは組織である以上仕方ないことです。今回締結12年目を契機に振り返りをしていただき、昨年の浜中町での講演会と今回の多摩動物公園での講演会につながりました。とても感謝しています。

元々、私のトウキョウトガリネズミについて知りたいという思いに、多くの人に賛同していただいたことから始まり、今まで色々な方に応援・支援して頂いてきました。しかし、私個人ベースの研究ということもあり、細々と継続していくのが精一杯で、一番大きな目標である累代飼育まではまだ成功していません。関係者の方には大変申し訳ないと思っています。私も定年の年齢になり、残された時間を考えて、これまでとはアプローチを変更して、あと3年以内に最低トウキョウトガリネズミの出産状況だけでも確認すること目標に努力しています。

今回12年分の成果を報告する時間を設定していただいたので、時間があればぜひお越しいただけば幸いです。

詳しくは、多摩動物公園のHPをご覧ください。

事前申し込みが必要ですが、申し込みされると入園料が無料になります。講演会だけではなく、トウキョウトガリネズミの実物もぜひ多摩動物公園で見てください。申し込み期限は2月23日までです。

雪に穴を掘るトウキョウトガリネズミ

雪に対する行動を調べ始めて、1ヶ月が経ちました。今年の冬は近年には無い暖冬で、1月末から2月上旬だというのに、外気温とほぼ同じ環境の飼育ケースに入れた雪の大半が溶けて無くなり、2回も雪を入れ直しました。

初めの頃は、勢い良く雪を飛ばしながら穴を掘る場面を良く見ました。体が小さいのに、とても力強さを感じました。それを録画したいと何回かチャレンジしたのですが、なかなか新雪のような状態にならないこともあり、撮れません。やっと、1秒ほど撮れました。最初見たほど勢いよく激しくはありませんが、それなりの堅雪でもこれくらい雪を飛ばせるという、力強さを感じてもらえればと思います。

なお、移動しているスピードは編集されていません。トウキョウトガリネズミの移動速度は相変わらず高速で、追うのが大変です。

 

トガリネズミとネズミの区別4(トガリネズミの歩く姿)

前回、トウキョウトガリネズミの飼育下の雪上の映像をアップしましたが、これまで完全な自然状態下でトウキョウトガリネズミを観察できたことはありません。とにかく小さくて、突然出会い、写真を撮るなって、まだ十分な知見を得られていないので、奇跡に近いと思っています。

これに対して、オオアシトガリネズミには結構出会います。「見たよ」と教えてくれる方は、夏よりも冬の方が多い感じを受けます。特に「スキー場で見た」という話が多い気がします。雪上だと黒くて、ちょこまか、ちょこまかと慌ただしく動く感じに見えるので、目立つのだと思います。

前にトガリネズミは「尻尾をあげて走っている感じ」ということを書きましたが、映像を見ていただくの方が判ると思います。オオアシトガリネズミの映像が今一つですが、トウキョウトガリネズミと同じぐらい尾を上げています。

オオアシトガリネズミは、スキー場のある山地だけでなく、住宅街でも畑のあるところなら生息しているので、散歩することがあったら気をつけて時々雪面を見てください。出会えるかもしれません。

平ら場所を急いで移動する時は、尾を上げていることが多い

雪上のトウキョウトガリネズミ

今、トウキョウトガリネズミが雪がある時期にどのような行動をするのかについて調べています。

飼育ケースには雪がない部分もありますが、積極的に雪のある場所に来て、雪に穴堀ったり、木や草の隙間を利用して、トンネルを作っています。

トガリネズミとネズミの区別 1

時々、トガリネズミに関しての問い合わせもいただきます。その多くは、「これはトウキョウトガリネズミではないか」と「トガリネズミなのかネズミなのか」の2つに集約されます。また今年の干支が「鼠」なので、例年になくトガリネズミが話題にされる時期なので、問い合わせが多くなります。関心を持ってもらえるのでうれしいです。

昨年12月の講演会に限らず、トガリネズミに関する講演では、必ずトガリネズミはモグラの仲間で、ネズミとは全く別ものであることについて触れますが、あまり時間を割くこともできないので、十分理解してもらえない状況で先に進んでしまうことも多いので、今回何回かに分けて説明してみたいと思います。

まず、分類学的にどうこうと言う前に、姿形でトガリネズミとネズミを自身をもって区別できるようになることが重要です。以下の2枚の比較写真を見て、どこが区別のポイントかをまず考えて見てください。まず区別のポイントがどこかを自分で考えることが、野外で瞬時に区別できる能力アップにつながります。

北海道のこの時期、「雪の上をネズミみたいな生き物が歩いているのを見た」という話が時々あります。それが解るようになります。回答は次回で。

あくび(スロー映像)が撮れました

やっとトウキョウトガリネズミのあくびのスロー映像が撮れました。飼育しているとあくびをたまに見ることがありますが、撮影するとなるとなかなか撮れないものです。

そもそもあくびは、哺乳類だけではなく爬虫類や鳥類でも起こることが知られています。人間があくびする時は、眠たいとき、疲れているとき、退屈なとき、極度の緊張状態のとき、寝起きに起こるとされています。その理由は、酸欠になっているからとか、脳の温度を下げるためとか言われていますが、解明されたとはまでは言えない状況にあります。

トウキョウトガリネズミに関しては、寝起きやじっと同じ体勢でいて、活発に活動をし始めるときに見られます。脳の温度を下げるという理由の一つとして、人間は体温より高い環境ではあくびをしないことがあげられています。しかし、トウキョウトガリネズミは、そもそも基本的に自分の体温より高い気温なる環境に生息していませんし、25℃を超えると口でハアハアと息をする状況もみられ、35℃を超えると死んでしまうこともあるので、そう簡単に同じ状況とは思えません(注1)。今回の映像は気温0℃から5℃の間で、寝ていた後にあくびをしたことから考えると、脳の温度を下げるほど温度が上がっていたのかが疑問になるところです。体が小さくて、寒いところに生息していることから基礎代謝量を高い状態で維持する必要があることを考えると、そう簡単に脳の温度を下げるような状況を体内に作り出すのは、戦略的に不利な印象を受けます。そもそもあくびの理由が、すべて種で同じなのかも検証されていないので、全く別の理由があるのかもしれません。

とにかく、あくびをみるとホットします。なぜなら、あくびを見るときは今のところ常に寝起きの状況なので、緊張状態とは思えないからです。それは、飼育下でも少しでもストレスが少ない状態であって欲しいという私の勝手な思いかもしれませんが・・。

注)トウキョウトガリネズミの体温はサーモグラフィーで測定すると最低36℃程度はある。また、飼育下で夏場に誤って35℃~38℃になった時に死亡した事例がある。